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マサヒロ・タナカの契約交渉の旅が、米国で始まった。彼の予定に詳しい関係者は、これから数日間で数チームと合う予定であると語った。

タナカと代理人のケイシー・クローズは、締め切りである1月24日午後5時までにチームと契約を結び、健康診断を終了させる必要がある。

日本での昨シーズンに24勝0敗、防御率1.27を記録したその右腕は、多くの人が先発ローテーションの上位になると見ている。25歳のタナカと契約するメジャーリーグ・チームは、楽天ゴールデンイーグルスに20百万ドルのポスティング・フィーを支払うことになる。

ある関係者によれば、MLBチームの3分の1以上がタナカに興味を持っており、その契約は6年100百万ドル前後になると予想される。彼に興味を持つチームは、ニューヨーク・ヤンキース、ボストン・レッドソックス、ロサンゼルス・ドジャース、ロサンゼルス・エンゼルス、シカゴ・カブス、シカゴ・ホワイトソックス、シアトル・マリナーズ、アリゾナ・ダイヤモンドバックス、テキサス・レンジャーズ、フィラデルフィア・フィリーズ、オークランド・アスレチックス、そしてヒューストン・アストロズである。

タナカは、まず初めにカブス、そしてホワイトソックスと面会すると報じられている。

どの街でプレーをしたいのかについて、タナカ自身が考えている段階であると、ドジャースのネッド・コレッティGMは水曜日に語った。

「彼がポスティングされるって発表されて、ケイシーが彼の代理人だって発表された時に、すぐにケイシーと話をしたんだ」コレッティは言った。「ケイシーと私は、長い付き合いだからね。彼らは、状況を探っている状態だ。それぞれの都市やチーム、マーケット、それぞれのチームがこの先どうなるのかについて学ぼうとしている」

「これは、選手にとっても大きな決断だからね。まぁ、そんな様な話をしたし、これから先にどうなるのかを見ていくよ」

ドジャースには潤沢な資金があるが、クローズが代理人を務めるナショナル・リーグ・サイヤング賞投手のクレイトン・カーショーは、2014年シーズン後にフリーエージェントになる予定だ。

シーズンオフが始まって以降、ヤンキースがタナカの獲得に強く動く計画であると、複数の情報源が話していた。CC・サバシアとヒロキ・クロダがトップにいるローテーションに、若い先発投手が必要なことが現実だからである。彼らの次には、イバン・ノバが3番手候補で、4番手と5番手は不透明だ。マイケル・ピネダ、デビッド・フェルプス、アダム・ウォーレン、そしれビダル・ヌノが、5番手争いをすると予想される。

もしヤンキースがタナカとの契約を逃した時に、彼らが他の先発投手の獲得に動くのかも不透明だ。彼らは他のトップクラスのフリーエージェント先発投手には、現在の価格では興味を示していないからである。マット・ガーザ、アーヴィン・サンタナ、そしてウバルド・ヒメネスは、まだ契約していない。必要な補強をするために、外野手のブレッド・ガードナーのトレードの可能性も再び浮上するだろう。

ロビンソン・カノの時の様にマリナーズは、ヤンキースのもっとも手強いタナカの競争相手だ。フェリックス・ヘルナンデスとヒサシ・イワクマがローテーションのトップにいるマリナーズは、アメリカンリーグ西地区で優勝争いをするためにさらに先発投手が必要である。そしてイワクマとタナカは、楽天でチームメイトだった。 

参考記事:Masahiro Tanaka to meet with teams By Andrew Marchand | ESPNNewYork.com

私が話をするほとんどの球界関係者は、マサヒロ・タナカの獲得競争が、1月24日のデッドラインまで続くと見ている。つまりその国際的な感心事を、私たちが詳細に吟味する時間は残り2週間少々である。

日本から来る次のスター選手候補についてより良く知るために、最近私は、過去5年間にタナカを間近で見てきた人物に話を聞いた。

2006年〜08年の3シーズン、ヤンキースに在籍していたダレル・ラズナーは、ここ5年間は日本のパシフィック・リーグ、楽天ゴールデンイーグルスでタナカのチームメイトだった。昨年ゴールデンイーグルスのクローザーだったラズナーは、9月にシーズン絶望となるトミー・ジョン手術を受けるまでに17セーブを挙げた。ネバダの自宅でラズナーは、タナカに対する経験に基づいた彼の考えを語った。

聞き手:昨年のタナカが、24勝0敗だったのはみんな知っているけど、彼はどれくらい良かった?

ラズナー:彼は本当に凄かったよ。彼のことを正確に説明できる言葉が見つからないくらい。見ていて本当に楽しかった。去年の彼の投球を見て、大ファンになったよ。彼は特別な投手なんだ。投手の中には、特別なギアを持っている人がいる。僕はそれを持っていなけど、彼らはトラブルになった時にギアを入れ替えて、本気で投げてアウトを獲りに行くし、それは見ていて本当に楽しいんだ。

僕が彼を見て思ったのは、彼は本当に粘り強い。日本で彼は実績があるし、ほとんどの時は打者に対して気楽に投げている。彼はマウンドで、70%の力でアウトを獲る。彼は本当に特別だし、彼を見ているのは最高に楽しいよ。

聞き手:彼が特別なギアを持っていると言うけど、彼は大切なアウトを獲る時に3〜4マイル上げるってこと?

ラズナー:10マイルくらいだよ! 普段の彼は88〜89マイル、それか90〜91マイルくらいで投げるけど、必要になると98〜99マイルに跳ね上がるんだ。僕は去年、実際にそれを見ているし、そのうちの1回は本当に凄かった。その時の彼は8回か9回で140球を投げていて、三振が必要な時になったんだ。そうしたら、90マイルだったのが98〜99マイルになって、三振を獲った。彼の精神力と投球術、そしてその若さを思えば、見ていて本当に印象的だった。

聞き手:彼はまだ25歳だ。あなたは彼を5年間見てきたけど、彼はどんなふうに成長したの?

ラズナー:彼は最初からずっと素晴らしかったし、特別だった。だけど去年の彼は、クイックで投げたり球のスピードを変えたりして、打者のタイミングを外すことを覚えたんだ。彼は今の自分に、自信を持っている。彼のことを見るのはいつも楽しいけど、去年は特別だった。

聞き手:私が話したスカウトは、彼のファストボールのコントロールは、単に「良い」のではなくて、「素晴らしい」って言っていたけど、それは当たっている? 

ラズナー:確かにそうだ。彼はコーナーに投げることができるし、1インチや2インチだけ外すこともできる。おそらく彼は、2つの球種でアウトを獲ることができる。ほとんどの日本人投手は、ユウ・ダルビッシュのように、12種類もの球種を持っている。キャッチャーは、そんなに指がないよね? 個人的には、今の彼はいつでもメジャーリーグの打者からストライクを獲ることができる球を4つもっていると思う。

聞き手:彼にはファストボールとスプリッターがあるって聞いているけど、他には何があるの?

ラズナー:彼は他に、カーブ、スライダー、シンカー、チェンジアップを投げる。彼は多くの球種を持っているけど、その中で特に良い4つの球種に制限しているのは、投手コーチの判断だ。そして彼はそれでも通用するし、コーチもやりやすいんだ。

聞き手:昨年の彼が負けないのを見ていて、どんなだった?

ラズナー:僕はここ数年ブルペンにいるんだけど、彼が投げている時は、ボールを渡してくれないんだ。僕はクローザーだったけど、彼が投げた時はほとんど毎回お休みだった。彼はエースだから、ブルペンを休ませてくれたんだ。彼はいつでも、僕たちと交替することもできたけどね。チームが絶対に負けられない時は、彼が投げ続けた。だから言ったように、ブルペンは休みのようなものだった。僕たちは、彼がマウンドに上って9回を投げれば、勝てるってことを知っていた。

聞き手:長い間タナカと一緒にいて、彼の性格や振る舞いはどうだった?

ラズナー:彼は良いチームメイトだよ。最近の2年くらいは、彼が英語を勉強しているのを見たし、ほんとうに熱心だった。彼は僕たち外国の選手(2013年の楽天にいたのは元ヤンキースのアンドリュー・ジョーンズとケイシー・マギー、もとフィリーズ/アストロズ/ロイヤルズの投手ブランドン・ダックワース)とも仲が良かった。英語を勉強しながら、日本語を話さない選手とコミュニケーションを取ろうとするなんて、いいやつだよね。クラブハウスでは楽しい男だし、素晴らしいチームメイトだ。プロ意識も凄く高いし、良いハートを持ったすべてが良い男だ。

聞き手:彼の性格は、ニューヨークにフィットする?

ラズナー:僕は大丈夫だと思う。ニューヨークは、ファンの目が厳しいところだけど、彼は日本中で注目されながらプレーしていたから、ニューヨークもそんなに苦にならないと思う。僕は彼に、ヤンキースのような大きなマーケットのチームに入って欲しいと思っているし、そうなればもの凄いことになると思う。

聞き手:なら彼は、メジャーでも成功すると思う?

ラズナー:24勝0敗なんて、誰もができることじゃない。メジャーリーグなら、なおさらね。良い打者がたくさんいるし、調子が悪い日だってあるはずだ。僕が思うに、彼の精神力とハートの強さ、そして彼の生まれついての粘り強さがあれば、調子が悪い時でも、多くの試合で彼は勝つことができるだろうね。繰り返すけど、彼は素晴らしい球を4つも持っているんだ。彼の球は、おそらくユウ・ダルビッシュほど衝撃的ではないし、ダルビッシュほど、体格に恵まれてもいない。だけど彼は若いし、投球の仕方を知っている。彼はどこに投げれば良いのか、そしてスピードを変えることを知っている。打者のタイミングをずらすために、そういうことをできるあんなに若い投手は、あまりいないと思う。彼は活躍できると思う。

聞き手:アメリカと日本で使っているボールに違いがあるって良く聞くけど、それは本当?

ラズナー:ボールは違う。メジャーリーグのボールの方が滑るし、すこし大きい。なぜかは知らないけど(日本のボールは)、グリップする。だけど(タナカは)、メジャーリーグのボールでキャッチボールをしているし、ブルペンでもメジャーリーグの球で投げている。個人的には、彼にはそれは、大きな問題にはならないと思う。彼の強い闘争心は、他の選手から何か言われるかもしれないけど、彼はそれを乗り越えるだろう。

今回のことは、彼が本当に望んでいることで、僕は彼がそのチャンスを得て嬉しいよ。あっちでの彼は、もう何も証明する必要がなかったから、面白くなかったんだと思う。だから彼にとっては、素晴らしいチャレンジだと思う。

聞き手:ヤンキースファンは、今でもケイ・イガワの失敗を覚えている。あなたはニューヨークと3Aでイガワと一緒だったけど、彼らはどう違う?

ラズナー:ケイは、軟投派の左腕で、タナカはパワーピッチャーにもなれる。彼は両方ともできる。僕はケイとは、一緒にプレーするまで、グラウンド外の彼は知らなかった。タナカのことは知っているし、彼の闘争心も知っている。その闘争心だけを取っても、僕はタナカが活躍すると信じている。それに彼の野球に対する心構え、それはとても、とても大きなことだと思う。

聞き手:日本シリーズでタナカは、6戦目で160球を投げて、7戦目はブルペンから登場してセーブを挙げた。それはとても多い投球数だし、高校生の時の投げすぎも、今のこっちでは懸念されている。あなたもそう思う?

ラズナー:そうだね。そのことは、僕も心配したんだ。いつも彼に、投げる量を減らせって言ってた。だけど日本の人たちは、そうは考えないんだ。彼の体の大きさは他の日本人選手とは違うから、その影響は少しは小さいと思う。だけど投げ過ぎの心配は確かにある。彼らについて知っていることの1つは、特にタナカは、彼は投げたくて、投げ続けたくて、彼からボールを取り上げるのは本当に大変なんだ。コーチや球団から見れば、そういう選手が1人いると助かるだろうけど。でもそれは過去のこと。彼は、アメリカの体力強化のプログラムを受けて、より計画された投球をすることになるんだ。今の彼の体の大きさと強靭さなら、それも上手にできると思う。

ラズナーはタナカを表すのに、数回「粘り強い」という言葉を使った。あるメジャーリーグ球団の幹部も、タナカを評価する時にほとんど毎回、同じ単語を私に使った。

他のメジャーリーグ球団の幹部は、タナカの投球数は懸念しているが、もしMRI検査でダメージを見つけても、彼の獲得を諦めることにはならないだろうと認めた。「彼の肩と肘に問題がある可能性はあるが、もし彼が大丈夫だと言うのなら、MRIではなく、彼を慎重に扱わなくてはならない。もし彼が、これまでにケガをしていたり、先発を飛ばしたことがあったのなら、話は違っただろうけどね」

同じ幹部は、投球数や違うボールへの適応、文化的な適応などはすべて「チームが値段を下げるための口実に過ぎない」とし、タナカが120百万ドル以上の契約を簡単に勝ち取るだろうという多くの人の予想は覆らないだろうと指摘した。

参考記事:Sweeny: Rakuten Teammate Raves About ‘Bulldog’ Tanaka Sweeny Murti CBS New York

MLBチームとタナカとの契約のデッドラインまで残り3週間となり、彼の獲得競争は更に激しさを増すだろう。しかしその争奪戦から降りるチームが、レッドソックスである。ボストン・グローブ紙によると、ボストンはその右腕を高く評価しているが、彼を積極的に追いかけることはしない。

レッドソックスは、ジョン・レスター、ジョン・ラッキー、ジェイク・ピービー、クレイ・バックホルツ、フェリックス・ドゥブロント、そしてライアン・デンプスターと、5つの先発枠に6人の先発投手がいる数少ないチームの1つである。タナカに注目が集まり、ウバルド・ヒメネス、マット・ガーザ、そしてアーヴィン・サンタナの契約交渉が進まない中で、もしかしたらレッドソックスは、内野の左側を若い選手にプレーさせるために、余っている先発投手の1人の放出を考えるかも知れない。ラッキーかピービーのいずれかが、移籍候補として名前が挙がっている。

確かにチームの投手力は、あっという間にダメになってしまうことがある。昨シーズンのレスターは、レギュラーシーズンとプレーオフを含めて248イニングを投げ、ラッキーはトミー・ジョン手術から復帰して1年後で215回1/3を投げた。デンプスターは、これまでのキャリアでブルペン経験が豊富であり、チームは5人の先発投手のうちの1人がダメになった時の予備の先発投手として、彼をチームに残しておきたいところである。

レッドソックスには、特にアレン・ウェブスターやアントニー・ラナウドと言った若手投手もいるが、若手投手はあまりあてにできない。レスター、デンプスター、ピービーとラッキーは、2014年後にフリーエージェントになるが、ラッキーとピービーには、2015年のチーム側オプションがある。もし彼らのオプションを行使してもローテーション枠は空くことになり、25歳のタナカはその内の1つにフィットするだろう。彼は将来に重要な立場になる前に、2014年はローテーションの下位でメジャーリーグに慣れることができる。

昨年のワールドシリーズ・チャンピオンのレッドソックスは、比較的静かな冬を送ってきており、フォール・クラッシックの時の彼らよりも、現在はかなり戦力が落ちていることは事実である。ジャコビー・エルズベリーとジャロッド・サルタラマッキアが去り、プロスペクトのジャッキー・ブラッドリーJrとA.J.ピアジンスキーに入れ替わった。スティーブン・ドルーと再契約してイグザンダー・ボガーツがウィル・ミドルブルックスと入れ替わらない限り、2014年のチームの戦力が向上するとは思えない。

マリナーズ、ヤンキース、カブス、そしてドジャースが、タナカを獲得する有力候補と見られている。彼との契約は、6年100百万ドルを超える方向に向かっていると言われており、加えて20百万ドルを、彼がいた楽天ゴールデンイーグルスに支払わなくてはならない。 

参考記事:Report: Red Sox not expected to pursue Masahiro Tanaka By Mike Axisa CBSSports.com

マサヒロ・タナカとの交渉期間が始まった。メジャーリーグチームが、彼の価値を測るときの問題の核心は、この先どれくらい良くなるかではなく、彼が何年間活躍できるのかである。その問題がとても難しいのは、その若さでありながら、過去35年間のその年齢のメジャーリーガーの誰よりも、タナカが多くのイニングを投げているからである。

それは、投手の常識を覆すものである。もしタナカが、これまでにアメリカ流で育てられていたのなら、日本で彼がした様に、24歳のシーズンまでに1,315イニングを投げるなどということが、許されるはずがなかった。メジャーリーグにおいてそれほどの若い年齢で、それほどのイニングを投げた最後の投手は、1973年〜78年のフランク・タナナだった。タナナは、そのうちの3シーズンでオールスターに選ばれたが、25歳のシーズンの時に肩を痛めた。その後の彼は15シーズンを投げたが、オールスターに選ばれることはなかった。

そして1970年代の野球は、比較するのがためらわれるくらい、今日の野球とは大きく違った。過去20年間で球界の常識となったブルペンの専門化、投球数とイニング制限によって、タナカと同じくらい投げたメジャーリーグの投手を、私たちは見たことがない。そのことについて、考えてみよう。タナカの25歳という年齢は、メジャーリーグチームに6年、あるいは7年という夢の様な契約を考えさせる理由となるが、彼の長期的な価値を考えると、その通常では考えられない投球数によって複雑なことになる。

「彼が25歳だというだけで、みんなが何も考えないで行動している」 ある球団の幹部は言った。「彼は、険しい道を歩んできた1人の投手だ。(タナカは)とても魅力的な投手だけど、現実的なリスクがある。・・・それはすべての投手にあるけどね」

タナカの稀な投球数について分析しよう。1961年以降、タナナ以外に2人の投手が、24歳までにメジャーリーグで1,315イニングを投げている。それはラリー・ダーカー(1964〜71)とバート・ブライレブンである。

しかしタナカがより特殊なのは、10代においても異常なほどの投球数をしていることである。タナカは18歳と19歳だった時に、楽天イーグルスで359イニングも投げた。メジャーリーグの歴史において、10代でそれ以上のイニングを投げた投手は、ボブ・フェラー(1936〜38)とピート・シュナイダー(1914〜15)の2人だけで、それもかなり前である。

フェラーは殿堂入りしたが、若いころの過剰な投球数は、23歳、24歳、そして25歳の時に第2次世界大戦に従軍したことで軽減された。シュナイダーはケガ、そしてコントロールの悪さに悩まされて23歳で投球を終えた。

(対照的に、現在の投手のプロスペクトの1人、アリゾナのアーチー・ブラッドリーは、18歳と19歳の時にマイナーで、合わせて138イニングしか投げていない)

そして忘れてならないのは、高校生の頃から活躍しているタナカは、有名な甲子園大会の5試合で、742球を投げている。

なぜこの若い時の投球数が、そんなに重要なのだろう? どの球団でも言うことは、早過ぎる時期に多すぎるイニングを投げることは、負担が大きいということだ。科学的な研究では、ケガにつながる大きな2つの理由は、悪い投球フォームで投げすぎることである。そしてその影響は、体が完成していない若い投手のプレーにおいて大きいのだ。

投球数とイニング制限は、日本ではあまり浸透していない。タナカは日本で、10代の頃に9完投している。メジャーリーグ史上、10代で9完投を記録している投手は、わずかに13人で、全員が48年以上前だ。それほど多くの完投を許された、もっとも"最近"の10代は、ダーカー(1964〜66)、ワリー・バンカー(1963〜64)、マイク・マコーミック(1956〜58)、そしてチャック・ストッブス(1947〜49)である。

日本のコーチは、アメリカの投手よりも多く投げるのは、良いことだと信じている。しかし彼らの投手は、より短いシーズンの中で、比較的戦力が劣るラインアップと対戦し、長い登板間隔(通常は5日間隔ではなく、6日〜7日間隔)で投げる。実際にタナカは、そんなに多くのイニングを投げながら、イーグルスの1シーズンで28先発以上をしたことがない。

日本からメジャーに来た投手が直面するより厳しいスケジュールとラインアップは、2〜3シーズン目以降に影響がでる傾向がある。日本生まれの11人の投手が、メジャーリーグでの1シーズンで25回以上の先発をしているが、それを3回以上記録しているのはヒデオ・ノモとヒロキ・クロダの2人だけである。

そしてタナカが受け取ると予想される金額の投手に期待される30先発にハードルを上げると、それもノモとクロダの2人がそれぞれ2回記録しているだけである。そして注意が必要なのは、ノモは最初の2年間で素晴らしい活躍をした後の10年間は、ジャーニーマンになったことである。

タナカは、ノモの様な1年目からの活躍が期待されるはずである。彼は別格のコントロールと球種、そして特に素晴らしいスライダーがある。そして彼の投球フォームは、若干個性的(彼はボールを後ろに持ってきた時に、手首を曲げる。そしてボールを投げに行く前に、右肘が上がる)ではあるが、問題のないものだ。彼は始めから、多くの三振を奪いながら四球の少ない投手でなければならない。

しかし長期的なタナカへの期待は、彼の投球数を比較するものがほとんどないことだけを見ても、不透明な部分が多く残る。ここで年齢とイニング数を元にした、タナカとのベストな比較を紹介しよう。始めは、24歳までのシーズンの比較である。

                                                                   GI           P          W-L         ERA       CG       BB        SO
フェルナンド・バレンズエラ  (1980-85)  176    1285.1  78-57  2.89       64      455  1032
マサヒロ・タナカ                  (2007-13)  175     1315  99-35      2.30  53      275  1238

念押しするが、これは過去との比較である。バレンズエラの19歳〜24歳の投球数は、1980年代だとしても多いものだ。彼は25歳の1986年も21勝を挙げて20完投と活躍した。そしてバレンズエラは、最初の200先発で84完投しており、19歳〜25歳の彼の先発における完投率42%は、驚くべきことだ。しかしその後のバレンズエラは目立った活躍はできず、25歳以降はオールスターにも選ばれず、74勝85敗、防御率は4.23だった。

2つ目の比較は、タナカとユウ・ダルビッシュである。ダルビッシュは日本で7シーズンを投げた後に、レンジャーズでの2年目を終えたばかりである。ここで日本での24歳までのダルビッシュとタナカを比較してみよう。

                                                       G           IP           W-L       ERA    CG      BB        SO
ユウ・ダルビッシュ(2005-11)  167  1281.1     93-28     1.99     55     333  1250
マサヒロ・タナカ    (2007-13)    175  1315        99-35     2.30     53     275  1238
 
多くの共通点がある。ダルビッシュはメジャーでもすぐに活躍し、2年連続でサイ・ヤング賞候補になり、最多奪三振を記録した。しかし彼もまだ、始まったばかりである。彼はいま、ノモがぶち当たり、クロダが乗り越えた壁に届くところである。

そして彼は、旧制度のポスティング・システムで契約した。それでは1つのチームとしか交渉ができず、ダルビッシュは"わずか"56百万ドルの6年契約を結んだ。テキサスは、交渉権を獲得するためのポスティング・フィーに51.7百万ドルを費やしたので、彼との6年契約にかかったのは合計で107百万ドルである。それでもその金額は、マット・ケイン(127百万ドル)、コール・ハメルズ(144百万ドル)、そしてザック・グレインキー(147百万ドル)の6年契約と比較すれば、まだバーゲンである。

新しいポスティング・システムによって、ポスティング・フィーの上限が20百万ドルになったことは、タナカにどの様な意味があるのだろうか? 彼は6年100百万ドル以上の契約を手に入れるだろう。それはジャイアンツがケインに、妥当な金額としてフィリーズがハメルズに、そしてフリーエージェント市場でドジャースがグレインキーに与えたラインとして、タナカには必要な資金になるだろう。

しかしタナカの選手としての価値は、ケインやハメルズ、そしてグレインキーほどあるのだろうか? 彼の価値は実力だけでなく、ポスティング・システムが変わったタイミングと、テレビの放映権収入が増加したことによるこの冬のフリーエージェント市場のインフレによって決められる。そして彼のタイミングは最高であり、いまの彼は、特にヤンキース、ドジャース、エンゼルス、レンジャーズ、そしてカブスといった球界でも裕福なチームを巻き込んだ条件合戦を創りだすことができる。

投手との長期契約のすべてにはリスクがある。しかしこの件でもっとも大きな問題は、それほどの大きな金額でありながら、不透明なことが本当にたくさんあることだ。ケイン、ハメルズ、グレインキーは、それぞれが契約を結んだ時にメジャーでの実績と経験があった。タナカはメジャーで投げたことがなく、近代野球で見たきた誰よりも多くのイニングを投げている。どこかのメジャーリーグチームは、米国では決してされない方法で成長し、そして使われてきた投手に対して100百万ドル以上を支払うことになるのだ。

参考記事:How will Masahiro Tanaka's workload impact his value in MLB? Tom Verducci SI.com

マサヒロ・タナカがポスティングされた今、楽天ゴールデンイーグルスのチームメイトだったケイシー・マギーとタナカが、マーリンズで再会するとは思わないで欲しい。しかしタナカの凄い評判について尋ねられたマギーは、それはその通りであると言った。

25歳のタナカは、212イニングを投げて24勝0敗、防御率1.27、四球を1つ与える間に5.72人の打者をアウトにして、ゴールデンイーグルスが日本シリーズを制覇する原動力となった。

「みんなは最初に見た時から、彼が違う生き物だって思うかも知れないね」マギーは言った。「彼の実力は、信じられないくらいだ。何球投げたのかは判断材料にならないし、少なくとも3つの武器があるけど、それをここやあそこに投げているだけではないんだ。彼はどんな時でも、ファストボール、スライダー、スプリッターのどれでも勝負ができる」

最近決められたポスティング・システムのもと、メジャーリーグのチームは、タナカと交渉する権利のために20百万ドルを用意しなければならない。楽天は、最終的に彼と契約したチームから、その金額を受け取る。

獲得可能な投手の中で最高だと見られているタナカには、選択肢がたくさんあるだろう。それに必要な金額は、20百万ドルを超えて、100百万ドルに届くかも知れない。

タナカの主な武器は、意のままに操ることができるスプリット/フォークボールである。

「彼のフォークボールは、僕が見てきた中でベストだ」マギーは語った。「多くの選手がそれを投げるけど、彼はそれを思い通りに操ることができるんだ。彼はそれをストライクにできるし、それを遅くすることもできるし、それを強く投げることもできる。ワンバウンドにだってできる。彼のその球は、本当に特別なんだ」

「どこにしろ、彼を獲得するにはお金がかかるだろう」

タナカは彼や、チームメイトで元メジャーリーガーのアンドリュー・ジョーンズに、メジャーリーグについてあまり質問することがなかったとマギーは付け加えた。成績から見るにタナカは、米国に彼の才能を持っていくというアイデアに気を取られることはなかったのだろう。

「彼があまり話したがらなかった理由の一部には、文化的なことがあったと思う」マギーは言った。「僕とアンドリュー・ジョーンズは、こっちのいろいろなことや、彼から聞かれたことについて話そうと思っていたんだけど、それは本当に少なかった。彼にとっては、それがベストだったんだ。シーズン中の彼は、チームに本当に忠実だったし、彼がしていることに、周りから影響されたくなかったんだ」

参考記事:McGehee says ex-Rakuten teammate Tanaka worth the money By Juan C. Rodriguez Sun Sentinel

マサヒロ・タナカは、次のホセ・フェルナンデスかも知れない。

これはメッツの元監督ボビー・バレンタインの評価である。彼は日本のパシフィック・リーグで、タナカの投球を見てきた。

「彼は、ホセ・フェルナンデスみたいに投げるんだ」バレンタインは金曜日、マーリンズのエースでナショナルリーグ・ルーキー・オブ・ザ・イヤーを引き合いに出して語った。「(タナカは)似たような素質に、似たような闘争心を持っていると思う。彼の実力は証明されているし、彼を気に入らない人はいないだろう。彼はどんなスタッフからも信頼されるよ」

今シーズン24勝0敗、防御率1.27を記録したタナカは、今週初めに楽天ゴールデンイーグルスからポスティングされたことで、20百万ドルを上限としたポスティング・フィーを用意できるどのメジャーリーグ・チームとも自由に契約できるようになった。

多くのチームの中でヤンキース、ドジャース、カブス、ダイヤモンドバックス、レッドソックス、レンジャーズが、少なくとも100百万ドル以上を受け取ると予想されるタナカと契約する可能性がある。

日本のパシフィック・リーグ、千葉ロッテマリーンズで監督を務めたバレンタインは、タナカが新人だった2007年とその後の2シーズンに渡って彼を見てきた。バレンタインは、彼のチームはタナカをドラフトしたかったが、くじ引きで負けたと言った。

「彼のスプリットフィンガード・ファストボールは、世界一だ」バレンタインは言った。

「積極的で攻撃的なのが彼なんだ。彼は若い時から、大きな舞台で投げてきた。彼は19歳の時から(日本の)メジャーリーグで投げてきたし、すべての国際試合、WBCでもプレーした。いろいろな選手に囲まれながら、彼は自分を見失わなかった」

バレンタインによれば、タナカが米国に来るにあたって適応しなければならないのは、野球関係よりも社会的なことだろう。しかし野球にも、一つだけ大きな違いがある。

「マウンドは、日本からくる選手にとって大きな問題だ。日本のマウンドは、柔らかいんだ」バレンタインは言った。「これに適応するのは大変だ」

来シーズンのタナカは、どのチームで投げるのだろうか?

「もし私が彼なら、ナショナルリーグで投げるだろう」バレンタインは言った。「それに西海岸のチームだ。気候が問題にならないところで投げたいよね」

参考記事:Bobby V: Tanaka has Rookie of the Year talent By Mike Puma NY.POST.com

メジャーリーグと日本プロ野球の間のこれまでのポスティング・システムでは、日本人スター選手に対して小さなマーケットのMLBチームが入札するのは、稀なことだった。ブルワーズがノリチカ・アオキと契約したように、小さなマーケットのチームが過小評価されていた選手を見つけて、期待以上の成果を得たこともあったが、近年日本からアメリカにくるビッグスターのほとんどは、最終的に裕福なMLBチームと契約してきた。ヤンキースやレンジャーズ、そしてレッドソックスの様なチームだけが、高騰するポスティング・フィーに加えて、それらの選手と有利な契約を結ぶだけの資金を持っていた。

MLBがNPBとの新しい契約を望んだ理由の1つはこれであり、そしてこの2つのリーグ間の新しいポスティング協定は、数週間の交渉を経て合意した。すべての選手に対するポスティング・フィーの最高額が20百万ドルに制限されたことで、例えばこのシーズンオフにもっとも注目される楽天ゴールデンイーグルスの右腕マサヒロ・タナカの様な日本人トップスターの入札に、論理的には大きなマーケット以外のチームも入札できる様になった。

確かにタナカを獲得するには、最終的には100百万ドルにも届く熾烈な争いが待っている。そしてそれは、彼を獲得する可能性が高いのが、いつもの大きなマーケットのチームであることを意味する。ヤンキースがタナカを狙っていることは広く知られており、ドジャース、エンゼルス、ダイヤモンドバックス、カブス、そしてマリナーズの名前もまた、度々登場する。しかし私は、タナカを狙っているチームは、これらのチームだけではないと思っている。それはこれまでに名前が出ていない「謎のチーム」の1つや2つではなく、率直に言えばそれに、ほとんどすべてのメジャーリーグチームが含まれる。

もしある球団がタナカを視察したうえで、日本からアメリカへ適応するための彼の能力について疑問を持つのなら、タナカの獲得合戦から離れるもっともな理由となる。しかしもしあるチームが、タナカはMLBでも通用する投球ができるが、彼らの球団が再建中である、あるいは最終的な契約の資金が足りないという理由で入札を控えるのなら、それは浅はかな考えである。ESPNのバスター・オルニーがツイートしているように「タナカに20百万ドルのポスティング・フィーを支払うのをためらうようなチームは、内野ゴロを追いかけないようなものである。試すだけならコストはかからない」のだ。

カブスがタナカに興味を示しているのは、「チームが再建中」だからという言い訳に対する明確な反論である。ESPNシカゴが最近報じたように、タナカの25歳という年齢は、あと2シーズン以上は優勝争いに加わる計画がないカブスにとっても魅力的なプロスペクトである。カブスがナショナルリーグ中地区制覇を狙う予定の時でも、彼の絶頂期は続いているだろう。アストロズがタナカを現実的なターゲットとしていることもまた、同じ理由によるものだ。ヒューストン・クロニクルは、その日本人右腕とアストロズが契約するのは、おそらく難しいかも知れないが、それでもタナカの獲得に期待していると認めている。そしてもしタナカが評判通りで、MLBチームのエースになれば、弱小チームの再建期間は、かなり短くできる。

「うちには、そんな余裕はない」という言う話は、それぞれのチームがMLBのテレビの全国放送からの収入を得ており、多くのチームがローカルテレビの放送権からの収入が増加していることから言って、説得力がないものである。そして私たちは最近の2年間で、それぞれのマーケットにおいてそれぞれのチームが、驚くような資金を費やして、自分のチームのスター選手と契約延長をしたり、高額なフリーエージェントと契約してきた姿を見てきた。

もしこの冬に、すでに積極的な投手のアップグレードを行ったツインズがタナカに入札して、彼との契約に積極的に動いても、それはそんなに驚くことだろうか? 2014年のプレーオフを視野に入れていることが知られているロイヤルズは、アーヴィン・サンタナの代わりとしてタナカの獲得に動く可能性がある。今シーズンの再現を狙っているパイレーツは、ワールドシリーズに進出するための最後の切り札として、タナカを加えることを狙っている。すでに投手陣が充実しているカージナルスやレッドソックスのようなチームは、その資金力と評判を使ってタナカと契約して、余った先発投手をトレードすることでロスターのさらなるアップグレードをして、球団の質を高めるかもしれない。

小さな、あるいは中くらいのマーケットのチームは、どうせ契約競争で大きなマーケットのチームに負けるのだから、タナカに入札する価値はないと思うのは自由だが、それは誰にも分からないのだ。この冬のマリナーズが、ロビンソン・カノを獲得するとは思わなかっただろう。マリナーズは、激しい競争でヤンキースを打ち負かさなければならず、それによって彼らは、球界でもベストな選手の移籍を成功させたのだ。

これらのすべては、活発なマーケットがタナカの金額を自然と上昇させるという意味で、彼の代理人のケイシー・クローズには良いニュースである。2014年のタナカが、大きなマーケットのマーケットのチームで投げる良いチャンスであると同時に、予想もしなかったチームが、彼の獲得に強く絡んできても驚くことではない。タナカを獲得するのはどのチームだと思うかについてのアンケートには、6チームの名前が出ていたが、投票の2位には、「その他」が入っている。それは単に、自分が応援しているチームが、エース候補を獲得して欲しいという願いか、あるいはポスティング・システムの変更が、裕福なチームのだけでないすべてのチームに公平になったという予兆なのかも知れない。

参考記事:Why Not Bid On Masahiro Tanaka? By Mark Polishuk MLB Trade Rumors

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