タンパベイのバットから予想外に早く、そして頻繁にライナーが飛び出し始めた時は、マウンド上にいるのが、ぼろぼろのブルペンのか弱いチームに救世主として現れた現在のヤンキースのエース田中将大ではなくて、伊良部秀輝ではないかと思わせるほどだった。

彼は、伊良部秀輝ではない。同じ国から来た、違う投手である。

田中将大は、エースの仕事をしている。エースは、常に完封勝利をするわけではない。エースは、常に万全の状態とは限らない。エースは、ファストボールのコントロールが思い通りでない時、そしてスプリッターがチェンジアップのような動きの時でも、その日のことは何でも解決する。エースとは、戦っている時のフロイド・メイウェザー、バーナード・ホプキンス、あるいはモハメド・アリにとても近い存在なのである。

「彼は、本当に上手に適応していると思う」と語ったのは、ヤンキースのジョー・ジラルディ監督である。

マウンドに立ったエースは、チームに勝つチャンスを与える方法を見つける。エースの能力が、そこにないようなことが稀にあっても、彼は不屈の精神でそれに立ち向かうことができる。

「彼は、いろいろな方法で打者にアタックできるし、1つの投球パターンしか持っていない投手とは違うんだ。彼は右打者でも左打者でも、ホームベースの両サイドに投げ分けることができる」キャッチャーのブライアン・マッキャンは語った。「だから彼は、ベストな状態ではない時でも、相手打線を手球に獲ることができるんだ」

エースは、立ち直りが早い。エースの精神力はタフだ。エースは、チャンスを決して重荷に感じることはない。エースは、チームの出血を止める必要がある時に、マウンドに上がることを望む。

エースは、初回に本塁打を打たれても、足首や頭の近くに球が飛んできても、決して動じない。エースは、炎になることが、あるいは氷になることができる。彼の場合は、氷である。

「足首に打球が当たったことが、彼にもう少し僕たちを信じようって気持ちにさせたんじゃないかな」

エースは、チームに楽観的な雰囲気と自信を与える。それは4回に3対0で負けているからといって、その試合には、負けないというものである。それは3対0で負けていた時にマーク・テイシェイラの本塁打で3対2にして、その後の6回にケリー・ジョンソンの本塁打で4対3のリードを奪ったようなチャンスが、常にあるということだ。

言い換えるならば、エースが投げている時は、実際に周りにいるすべての人たちを、良くすることができるということである。

テイシェイラは、「彼の後ろでプレーするのは好きだよ。だって彼は、いろいろな方法でアウトを獲るからね」と語った。

エースには、試合が進むに連れて良くなっていくチャンスが常にあるが、反対側にいる投手には、それができない。

「彼はある意味、修正する方法をすでに見つけていて、それをやっているだけなんだ」ジラルディは、言った。

6回で97球を投げていた田中は、その日の午後に初めてもらったリードを持ちこたえる必要に迫られた。そして2アウトにした田中は、デズモンド・ジェニングスにカウント0-3としたが、三振で彼をアウトにした。田中は7回で112球の登板だった。ところで彼が、まだ答えを出していない唯一の疑問は、時にスロースタートになった彼は、なぜ後半にかけて力強くなっていくのだろうかというものだ。

「僕も試合の初めから抑えたいですけど、本当に分かりません」

エースは、決して試合を退きたいとは考えない。しかしそれは以前の話で、ノーラン・ライアンが投げていた頃のことで、現在は違う。

「試合の中で自分なりの戦い方ができて、途中で降りることなく、あそこまで投げることができたのは、良かったと思っています」

ジラルディは、もしスコアが4対3のままだったら、8回表もマット・ジョイスだけは、彼に投げさせようと思っていた。しかし直後にジラルディが、彼の闘志とプロ根性がこもった登板に感謝を抱きながら交替を告げることになったのは、テイシェイラのタイムリーヒットとアルフォンソ・ソリアーノの犠牲フライによってスコアが6対3となり、8回に人手不足のブルペンからデリン・ベタンセスを登板させることができるようになったからだった。そして試合は、ヤンキースが9対3で勝利した。

「彼が何をしてくれるのかというと」ジラルディは語った。「いつも争って、長く投げてくれて、試合を壊さずに、勝つチャンスを毎回与えてくれることなんだ」

だから彼は、Maceahiro Tanakaなのだ。

参考:NYPOST.com