水曜日のことである。ヤンキース対カブスのダブルヘッダー第1試合の前、YESネットワークのアナウンサーは、先発予定の田中将大について紹介していた。当然のことながら、彼らはとてもポジティブな話しをしており、その中で解説者のアル・ライターは、「私が気に入っているのは、彼がストライクゾーンで攻めることだ」と言った。彼は田中を、アグレッシブで洗練された新人だと褒めていた。
 
そして水曜日の夜、私は友人で分析家のデーブ・キャメロンからメールを受け取った。それは、田中はストライクを投げないのだから、打者は、肩にバットを乗せて立っているだけでも良いのではないかと指摘していた。なぜ彼はストライクゾーンを攻めないのか? 彼は、十分なだけストライクゾーンに投げ込むことができるのか? そう書かれていた。

同じ日の1人の投手に対する2人の分析家の2つの分析は、基本的なところで正反対の結論に達していた。ライターは、田中はストライクゾーンを攻めると言った。デーブは、田中がストライクゾーンを攻めないと言った。これは、どういうことだろうか? 田中将大について、もう少し分析する必要がある。

ここにグラフを紹介する。ストライク率とストライクゾーン率である。これは2008〜2013年に100イニング以上投げた投手のデーターである。そして私は、論点を明確にするために2014年の2つのデーターを入れた。
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真っ先に分かるのが、その2つがはずれ値なことである。フェリックス・ヘルナンデスは、ストライクゾーンに約42%投げて、そして約69%がストライクである。田中将大は、約42%をストライクゾーンに投げて、そして約70%がストライクである。フェリックスのこのデーターは、なるほどと思うが、彼は世界で最も優れた投手の1人である。しかし田中はまだ新人で、この初期の結果だけで、この先も本当に素晴らしいままであると言えるものではない。

デーブの主張を裏付けているのは、田中のストライクゾーン率が本当に低いことであり、ライターの主張を裏付けているのは、田中のストライク率が、本当に高いことである。つまり田中の基本的な姿は、クリフ・リー並のストライク率に、フランシスコ・リリアーノ並みのコンタクト率とストライクゾーン率である。言い換えれば、彼はリリアーノよりもストライクを多く奪っている。さらに言い換えれば、彼はほぼパーフェクトである。そして忘れてならないのは、彼がこちらで投げ始めたのは、まだわずかに2週間前であることだ。

一般的にはずれ値は、特にこの早い時期のものであれば、自然と修正されていくものである。しかし現時点までに田中がしてきたことは、しっかりと認めるべきだろう。2008年〜2013年に100イニング以上を投げた投手の中で、68%以上のストライクを奪ったのは25人であり、そのうち最も低いストライクゾーン率は52%である。一方で45%以上をストライクゾーンに投げなかった投手は36人だった。つまり田中は、ストライクゾーンを外れている球で、空振りを奪っているのだ。彼は他の誰よりも、それをしている。

これまでの田中に対する、スイングとノースイングのチャートである。
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そして、それに最も貢献しているものを知っているだろうか? それは、彼がメジャーに来る前から誰もが恐れ、そして褒め称えていた田中のスプリッターである。tanaka2014splitters
今シーズンに50回球以上球を投げた先発投手の中で、もっとも打者から空振りを奪っているのは、ホアン・ニカシオのスライダーである。打者は、彼のスライダーの67%を空振りしており、そのうち41%がストライクゾーンである。次点が田中のスプリッターで、打者はその65%を空振りしているが、そのうちストライクゾーンのものは32%しかない。田中のスプリッターは、他にも球種があることに恩恵を受けている。しかし彼が、スプリッターをまったくミスしないということではなく、メルキー・カブレラには、それで先頭打者本塁打を打たれた。つまり田中の成功は、スプリッターだけのお陰ではないのだ。しかしそれが、最も効果的な球であることも事実であり、それはほとんどの人が、予想したことである。田中のスカウティングレポートは、その球に焦点が当てられており、打者は分かっているにも関わらず、それにほとんど為す術がない。

それを見分けるのをこれほどまでに難しくしているのは、田中が平均を超えたコントロールを持っているからである。試合での田中を見ると、彼は狙ったところに、球を投げ分けている。そして彼がコントロールしているスプリッターは、目標に向けて投げるのが、とてつもなく難しい。しかし彼が、マイク・オルトに投げたストライクゾーンギリギリのスプリッターを見て欲しい。opt_ (1)
その後に彼は、スプリッターをオルトの足元に落としている。
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もう一度対戦したオルトは、再びツーストライクに追い込まれた。彼は田中が、同じ試合の前の対戦で、スプリッターをストライクゾーンの外に投げてきたのが、頭にあったに違いない。そのオルトに対する田中の攻め方である。
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カウント1−2からワンバウンドするスプリッターの代わりに、田中は膝元にスプリッターを投げ、そしてオルトは、その作戦にはまった。そして田中は、その球をストライクに投げられることを見せつけた。しかし彼が、めったにそれをする必要がないのは、それをボールに投げることでストライクと獲ることができるからである。

そのバランスは興味深いが、田中がスプリッターをミスした時の映像を紹介する。相手はルイス・ヴァレンブエナである。
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低めのスプリッターの代わりに、田中はベルトの高さの内角に投げ、ヴァレンブエナはそれを強く打ち返してファウルにした。私たちは、田中がスプリッターを失投するところを何回か見ているが、それは下に食い込むのものである。しかしそれも稀なことで、まったくミスをしない投手は存在しない。田中がミスする回数は平均よりも少なく、彼の能力は、エラーをする余地を与えている。

つまり田中は、たくさんのボール球を投げながら、たくさんのストライクを奪っているのだ。彼が対戦したブルージェイズ、オリオールズ、そしてカブスの打者は、全体的に見てとても積極的だったこともあった。従ってその結果が悪くなることも必ずあるだろうし、修正が必要になるだろう。そして8月や9月の田中は、より普通に近くなる可能性が高い。しかし彼は、打者が追いかける球を持っており、その上に、ほとんど思ったとおりにそれを動かす能力を持っているのだ。それは、そのストライクゾーン率が、田中に対しては待ちの姿勢のほうが良いことを示している間に、彼はストライクゾーンで攻めてくるであろうことを意味している。そして打者が、スイングしようと決めた時には、田中はスプリッターと逃げるスライダーに戻ることができるのだ。私は、田中と対戦する打者に、何を狙えと言えば良いのか分からない。せいぜい、相談に乗るくらいである。

参考:FANGRAPHS