ドモニク・ブラウンは、土曜日のジョージ・スタインブレナー球場に来るまで、CC・サバシアと黒田博樹に続いて、田中将大がマウンドに上がることを知らなかった。それを知った彼は、すぐに眼の色を変えたと言っても過言ではない。
「準備はできている」と言ったブラウンの目は、輝いていた。

そして試合後のフィリーズには、その試合がヤンキースの先発ローテーションのお披露目会になったことを、気にする様子はなかった。彼らの中にいる少年の心は、その日に行われたメジャーリーグの最高のイベントに参加できて満足だった。

ビジターチームのメンバーが、クリアウォーターからタンパまでの23マイルのドライブ中に、ヤンキースが155百万ドルの新人をお披露目することについて話していたのは、本当である。

「確かに、話題になっていた」フィリーズの一塁手コディ・ アッシュは言った。「余計なことはできるだけ無視するようにしているけど、彼が投げることは、全員が知っていた。みんなが、彼と対戦するのかなって感じでラインアップを見ているような感じだったし、そうなったら彼を打ってやろうって感じだった。みんなが彼と、対戦したがっていた」

そう、それはスプリング・トレーニングの単なる1試合ではなかった。それはスタインブレナー球場に10,934人を集め、そして2つの国のテレビでライブ中継がされた一大イベントだった。

なんの心配もないように見えた唯一の人物は、ヤンキースの19番をつけた、25歳の右腕だった。

5回に黒田と交替して登場した田中が最初に対戦したのは、一塁手のダーリン・ラフだった。ラフは、その投手にアドレナリンが溢れていることを感じ取ったが、見た目の変化は感じることができなかった。

「彼は落ち着いている様だったし、(プレッシャーを)感じているようには見えなかった」ラフは言った。「僕は彼が、こっちで初めて投げるってことは関係なく、普通の打席って考えるようにしたかった。彼は仕事をするためにマウンドに上って、そしてそれをやりきった」

田中はヤンキースが4対0で勝利したあとに、「緊張したけど、良い緊張感だった」と言った。それは、サバシアと黒田によって続けられた無失点イニングを、止める力にならなかった。

彼は8人の打者と対戦して2本のシングルヒットを与えたが、ランナーを一塁より先に進めなかった。そして彼は3つの三振を奪ったが、彼がもっとも喜んでいたのは、四球を与えなかったことだった。

8人の打者に対する彼のパフォーマンスを分析した時、明らかに3人は手も足も出なかったが、それは彼の球速とは関係がなかった。田中の球速は94マイルを記録し、それは打者の気を引くには十分だったが、話題は遅くに変化する彼の球、圧倒的なスプリッター、そしてコントロールだった。

「彼は、打つのが難しい投手になるだろうね」ベン・リベアは言った。「僕が保証する」

ラフが田中を見たのは、初めてだった。彼はファストボールを空振りし、その後スライダーを見逃して、カウントが0-2になった。次の球はもう一度ファストボールで、ラフはセンター前に打ち返した。

その瞬間は、彼にとってどれくらい大きかったのだろう?

「メジャーリーグにコールアップされて、初めて打った時くらいかな」ラフは笑いながら言った。「冗談だよ。でも、良い経験だった。メジャーリーグのスプリング・トレーニングだから。いろいろな話が入ってくるし、彼が初めて打者と対戦するのを世界中が注目しているって知っていたから、とてもエキサイティングだった」

田中は、続いた打者をアウトにした。アッシュとキャッチャーのキャメロン・ラップがレフトフライ、そして二塁手のシーザー・ヘルナンデスは三振を喫して、5回は終わった。

ラップは、田中が投じた最初の球を、何の助けにもならないハーフスイングにしたことが、最悪のことだったと認めた。

「彼が最初に投げてきたのが何なのかが、まったく分からない」彼は言った。

そしてその後、彼はどうしたのだろうか?

「いまだって分からないよ」彼は言った。「僕はスイングして球はレフトまで飛んだけど、それだって見えなかった。どこかから球が来て、どこかへ飛んでいったって感じ。彼が速い球を投げてくるって思った。だからそれに備えたんだけど、現実的には遅すぎて、それができなかった」

キャッチャーのフランシスコ・セルベリは、限られた数しか投げられなかったスプリットフィンガード・ファストボールを含み、7つの違う球種を田中に要求したと伝えられている。そして田中によれば、スプリッターを3球しか投げていない。そして彼が、その球をそれしか投げなかったとしても、ブラウンに対しては、おそらく十分だった。

6回にスプリッターを追いかけた時のブラウンは、幻にスイングしているようだった。

「スプリットだって分かっていたけど、ストライクになるように見えたんだ。だけどそれは、足元に落ちた」彼は言った。「彼は良く動く球を投げる、我慢が必要なタイプの投手だね」

スプリッターにきりきり舞いだったブラウンは、高めに来た87マイルのカッターを捉えようとして、三振を喫した。

「バットを止めるのは難しいよ。特に2ストライクだったから。僕からどう見えるのかを、彼は知っていたんだと思う」ブラウンは言った。「もしその球が低めに来ていたら、たぶん打てていたと思う。だけど高めだったしツーストライクだったから、振らざるを得なかった」

楽天ゴールデンイーグルスが日本シリーズで優勝を決めた試合でセーブを挙げてから初めて、田中がマウンドに上がった時、東京は日曜日の午前4時を少し廻ったところだった。彼は記者たちに、日本にいる彼の家族は、時間が早過ぎるので、おそらく見ていないと話した。しかしラップは、土曜の夜を楽しんでいる人にとっては、それは良い時間帯だと指摘した。

「午前4時でも、みんな起きていたんじゃないかな」彼は言った。「みんなが、前日の夜から待っていたと思うよ」

その人たちは、ラフのシングルヒットを罵ったかもしれない。

「彼を打ったから、彼らは僕が嫌いだろうね」ラフは言った。「だけど彼は、この先たくさんのアウトをとると思う」

田中がアメリカで対戦した8人には、それは間違いないと思えるだろう。

参考記事:Tanaka as advertised, as Phils learn firsthand By Phil Rogers/MLB.com