誰も真似できないイチローは、40歳にして、未知の領域に足を踏み入れている。

日本とメジャーリーグで20年以上もプレーしてきたイチローは、高額な外野手と日本人スター選手が詰まっているヤンキースで、初めてポジションがない、あるいは先発要員ではない状況になっている。
「彼は、控え選手だ」ヤンキースのブライアン・キャッシュマンGMは木曜日、ジョージ・M・スタインブレナー球場で語った。それは彼のチームがオープン戦の開幕を迎え、パイレーツに8対2で負けた日だった。「今のうちには、彼の前に(アフォンソ・)ソリアーノ、(カルロス・)ベルトラン、(ブレッド・)ガードナー、そして(ジャコビー・)エルズベリーがいる。彼がスピードと守備で、素晴らしい物をもたらしてくれるのはあきらかだし、打てる選手でもある。ジョー(・ジラルディ監督)にとって彼は、ベンチからの選択肢になる。それはうちにとって、とても重要な役割になるかもしれない」

4月1日にヒューストンで行われる開幕戦のヤンキースの25人枠にイチローが入るのかと聞かれたキャッシュマンは、「疑いの余地はない、イエスだ!」と返答した。

それでもイチローのプライドを考えれば、左の代打、ピンチランナー、あるいは試合終盤の守備固めと言う役割に、彼が本当に幸せを感じるだろうと信じるのは、難しいことである。球界では高齢の選手に近づいていながら、彼は昨年のヤンキースでは150試合、2012年はヤンキースとマリナーズで162試合に出場した。

さらに、3,000本安打を達成するという問題もある。イチローは、あと残りわずかに258安打の2,742本にいる。彼はいろいろな記録を塗り替えながら、マリナーズで11年半を過ごした。彼はシーズン200安打を10年連続で記録し、その間の2004年には、ジョージ・シスラーの257本を超える262安打のシーズン最多安打記録を達成した。

しかしこれらの日々は、過ぎ去ったようである。イチローの伝説的な能力は、2012年は178安打、そして昨年は555打席で136安打と、衰えてきている。このペースならば、彼が3,000安打を達成するには、ほぼ2シーズンが必要で、ヤンキースでの限られた出場機会では、それは難しいだろう。

それでもイチローが、木曜日に通訳を通して語ったところによれば、それらのすべてのことをこの時期に心配するのは、早すぎる。彼はパイレーツ戦にライトで先発出場して、2度の打席は、フライアウトと内野ゴロに終わった。

「まだ、これからですから」彼は言った。「この先どうなるのかなんて話しをするのは、早すぎるでしょ。シーズンが始まれば、それは分かるんだし。そのことについて言えるのは、それだけです」

シーズンオフにヤンキースは、フリーエージェントだったエルズベリーとベルトランのそれぞれと、7年153百万ドル、3年45百万ドルの契約を結んだ。彼らはガードナーと、2018年までの52百万ドルの契約延長をした。イチローは6.5百万ドルの契約で、ソリアーノは、カブスとの長期契約の最後の年なので、18百万ドルのうちヤンキースが支払うのは5百万ドル。ケガがなければ、これが現実である。

エルズベリーとガードナー、そしてベルトランは、ケガが多い。そしてソリアーノは、指名打者での出場が多くなることで、頑丈なイチローは、ヤンキースにとって良い安心材料である。

「確実に、そして不運なことだが、ケガは必ずある」キャッシュマンは言った。「レギュラーが空く。その時に彼は、本当に前向きな意味で、うちにインパクトを与えてくれると思う」

トレードマーケットが開いている限り、キャッシュマンは常にそれを考えているが、現在の彼は、イチローを手放すつもりはない。

「もし良い話であれば、誰でもトレードの可能性はある。だけど彼は、うちにとって重要な役目だと見ている」キャッシュマンは言った。

今年のヤンキースキャンプで、おそらくもっとも注目を集めているのは、これまで同じ時期に同じチームになったことがなかった元日本プロ野球の選手たちである。

注目の新人投手の田中将大がいて、黒田博樹はチームに戻ってきた。そしてここ数週間は、松井秀喜までもが、打撃インストラクターとしてここにいる。

「ブランドン・スタイナーが、彼らが揃ったサイン入り写真を作るに違いない」キャッシュマンは、ヤンキースの公式グッズを手がけるスタイナー・スポーツ・マーケティングの社長に触れた。「彼は、稼げるだろうね」

しかし日本のオリックス・ブルーウェーブでプレーした9年間を含めると4,020安打になるイチローにとって、現在の日本人チームメイトの誰よりも、今のこの瞬間が、もっとも歴史的な時なのかもしれない。

松井とイチローは、2人が日本にいた時からの、長年のライバルである。イチローが安打を積み重ねる間、松井は日本のヤンキースと言われる読売ジャイアンツでホームランを打ち、何回も日本シリーズで優勝してきた。メジャーでの松井は、ヤンキースがワールドシリーズでフィリーズを降した2009年に、6試合で打率.615、3本塁打、8打点を記録して、MBPに選ばれた。

多くの安打記録を持ちながら優勝の経験がないイチローは、松井からの打撃のを求めなかったと言った。日本で松井は今でも大人気で、今年の春には、読売ジャイアンツで初めて打撃インストラクターを務めたことが、大きな話題となった。

「彼とは、ふつうの生活のことしか話しませんでした」イチローは言った。「野球に関することは、ありません」

松井は、彼からみたイチロー、そして遠くから見ていた彼の偉業に、大きな尊敬を現した。

「彼が、野球を初めてからのキャリアで達成してきたことについて、僕がコメントをする立場ではないと思います」松井は言った。彼はメジャーリーグの10年間で4チームでプレーし、2012年に引退した。「それは、それ自体が物語っていると思います。彼が見ているものとか、あの体の状態を保っていることからすれば、彼はあと10年はできると思います」

イチローは、そう言ってもらえるのは光栄だと言った。そしてあと、どれくらいプレーするのを目標にしているのかと聞かれたイチローは、返事に困ったようだった。

「60歳まではやらないでしょうね」イチローは言った。

これからの数か月が、それを決めることになるかもしれない。

参考記事:Ichiro to enter unfamiliar territory as role player By Barry M. Bloom/MLB.com