田中将大と契約したことで、ニューヨーク・ヤンキースの緊縮財政計画は破綻した。彼らのシーズンオフの大きなニュースはおそらく、ある原告による訴訟がペンディングになっている以外は終わりである。つまりヤンキースは、200万ドルの軍団と異なる文化という、球界でもっとも魅力的な組み合わせでシーズンを始めることができる状態なのだ。

マリアノ・リベラ、アンディ・ペティット、そしてロビンソン・カノが去り、ロドリゲス教授はステロイド休暇中、そしてデレク・ジーターは、6月で40歳になる。ブロンクスが、スター不在の状態になったのだ。そんな中で2014年に、3人の日本人選手がアメリカン・スポーツの象徴で一緒にプレーすることは、球界の国際化が進んでいることの証明である。

今年のシアトル・マリナーズとヤンキースは、ちょうど表裏の関係になっている。それはカノがワールドチャンピオンに27回も輝いているチームを去り、1回もそうなったことがないチームと契約したことだけが理由ではない。以前のマリナーズは、アメリカ野球界に後から登場したチームでありながら、日本ではもっとも人気があるチームで、それはその国におけるイチローの凄い人気によるものだった。しかし今は、マリナーズがこの冬の最高額の小切手を切り、一方で日本で人気のイチローは、ヤンキースの40歳の控え選手であっても、同郷の田中と黒田博樹と注目を分け合うだろう。

2014年のヤンキースは、3人以上の日本人選手を揃えた15番目のメジャーリーグ・チームになろうとしている。イチローはシアトルで5回、そして2012年のヤンキースでは黒田とリリーバーの五十嵐亮太と、そのほぼ半分に関係している。

2003年と2004年のドジャースは、4人の日本人選手を揃えていた。2009年のレッドソックスの投手陣には、松坂大輔、岡島秀樹、斎藤隆、そして田澤純一がいた。しかし知名度、メディアの注目度、そして球界の現状から見れば2014年のヤンキースは別格で、MLB史上もっとも大きな日本人パワーを持つことになるだろう。

ジャコビー・エルズベリー、ブライアン・マッキャン、そしてカルロス・ベルトランとの契約があった。彼らの加入は、メジャーリーグの他の29チームのキャンプでは、大きなニュースになるだろう。しかし田中のメジャーリーグ登場と、彼が溶け込むことをアシストするイチローと黒田のことは、ジョージ・M・スタインブレナー球場だけでなく、2つの国において非常に詳しく報じられるだろう。

2年前のテキサス・レンジャーズのスプリング・トレーニングで、最初の練習を終えたダルビッシュ有の記者会見には、130人もの記者が集まった。日本での注目度、イチロー、黒田がいることを考えれば、来月の田中には、毎日たくさん集まるニューヨークの野球メディアに加えて、もっと多くの人が集まるに違いない。

その注目度は 、米国への適応を始めたわずか25歳の若者でありながら、ベテラン選手を凌ぐものになるだろう。幸運にも田中には、2人の素晴らしいチームメイトが彼の状況を理解している。イチローがマリナーズに加入した2001年、そこにいたリリーバーの佐々木主浩は、毎日の生活の基本をアドバイスした(「僕たちは一緒に食事やゴルフをしながら、いろいろな話しをした」と、佐々木はその春にシアトル・タイムズに語った)。黒田も似たように、メジャーリーグの1年目だったドジャースの投手陣に斉藤がいたことから恩恵を受けた。2008年のロサンゼルス・タイムズは、黒田は斉藤から多くのアドバイスを受けたと報じた。それはドジャースのキャッチャー、ラッセル・マーチンが、ドジャースと契約する前のことだった。

このような立場の人間を、日本語で「先輩」という。日本野球を分析するあるウェブサイトは黒田について、「彼は田中の完璧なお手本だ。彼らがお互いにどの程度知っているのかは分からないが、田中がヤンキースに慣れるのに、黒田は本当に大きな助けになるだろう」としている。

作家で日本野球に詳しいロバート・ホワイティングは、黒田が田中と、日本野球とMLBの間の投球スタイルの違いをディスカッションすることが、特に助けになるだろうと言った。

「MLBではカウントが3−2になることが少ないとか、軽めのスプリング・キャンプ、クラブハウスで使えるジョーク、加入の儀式、物事の進め方、どのチームメイトに気をつけるとか」ホワイティングは、メールで言った。「一番大きなことは、遠征先で通訳なしで日本語が話せることだ。どこに美味しい日本レストランやナイトスポットがあると教えてくれる人物、孤独を和らげてくれる人物、野球のことを本当に理解している人物と話すことができる。アメリカの選手や他の国の選手が、日本に行った時の鏡写しのイメージだ」

「黒田は田中に対して、そのすべてをするだろう。それに彼はゴロを打たせる投手だから、他のことに加えて、ヤンキースタジアムでの投げ方を田中に教えることができる」

黒田と田中の距離感は、1つの象徴的な出来事で証明できる。金曜日にヤンキースは、田中が19番のユニフォームを着ると発表した。田中は楽天ゴールデンイーグルスで18番を身につけていたが、ヤンキースのその番号は空いていなかった。それは黒田の番号で、田中はそれよりも1つ大きな番号を選んだ。

(ちなみに田中の新しい番号は、過去20年間のヤンキースのポストシーズンにおける、1つは負けで1つは勝利という2つの意味深い過去を持っている。1995年のアメリカンリーグ地区優勝決定シリーズで、シアトルのエドガー・マルチネスにチームを救う二塁打を打たれ、シリーズを落としたジャック・マクドウェルが身につけていたのが19番だった。その9年後、ヤンキースタジアムで優勝を決める本塁打を打ったアーロン・ブーンが着けていたのも19番だった)

間もなくヤンキースの先発ローテーションで田中と黒田が並ぶことは、書類上のロスターに名前が並ぶこと以上の意味を持つようになる。日本の旅行代理店が、何年にも渡ってシアトル旅行を予約してきたのは、野球ファンがイチローを見に行くためだった。それが可能だったのは、イチローが頑丈な外野手でほぼ毎日プレーしてきたからだった。黒田と田中の場合は、その点は異なる。しかしその両右腕が登板する予定の週末シリーズは、ヤンキースタジアムに多くの野球ファンを連れてくる可能性があり、ヤンキースのジョー・ジラルディ監督は、ケガや雨天中止でもない限り、その予定を変えることはできないだろう。

そして私たちには、もう1つの注目点がある。黒田と田中の投球に何か似たところがあるのなら、3試合のシリーズの中で相手のタイミングを狂わすために、彼らの間に左腕のCC・サバシアを挟むことをジラルディが考えるかもしれない。メジャーで最後の年となるかもしれない黒田は来月で39歳になるが、昨年のヤンキースでもっとも優秀だった投手だ。サバシアに代わって、彼が開幕戦で投げる資格は十分で、そうなれば先発投手が右-左-右になるという利点も加わる。

そのシナリオなら、田中はシーズン3戦目のヒューストン・アストロズ戦でメジャーリーグデビューを果たすことになる。もしメジャー初登場の田中に対して、ヤンキースがプレッシャーの少ない状態を望むのなら、2012年にもっとも成績が悪かったチームを相手に遠征先で投げさせることはベストなシナリオになる。さらに良いことは、そのことで田中が、4月13日の日曜日に全国放送されるヤンキースタジアムでのレッドソックス戦で先発するスケジュールになることだ。ライバル対決が盛り上がる。

すべての可能性があるように見えるこの時期、ヤンキースが昨年のボストンの様なシーズンを終え方を夢見ていることに疑いはなく、そのときには田中がマウンド上にいるかもしれない。そしてもしそうなれば、2013年のレッドソックスの上原浩治に続いて、ワールドシリーズで19番を身につけて最後の球を投げる日本人投手になるだろう。

参考記事:Morosi: Countrymen will ensure smooth transition for Yankees' Tanaka Jon Paul Morosi FOX Sports