Prime 9: Ichiro moments 

最後のアウトは、イチロー・スズキがシアトルの人間としてプレーをする、おそらく最後の時だった。今シーズンは確かに最後になるであろう地元のヒーローは、ライト側の観客席に長い間あった彼の応援席を見るために少しだけ振り返り、手を振った。

その後イチローはセンターに駆け寄り、カーティス・グランダーソン、そしてアンドリュー・ジョーンズと手を合わせた。それは他のニューヨークのチームメイトと抱き合う前だった。セーフコ・フィールドでのさよならツアーは終わった。そして新しい始まりが、金曜日午後のヤンキー・スタジアムで待っている。それはプレーオフへの興奮に加わることで、イチローが強く欲していたものだ。

「僕はビジター側の選手になったんだけど、ビジターの選手としての僕に、少しだけ野次を飛ばすファンがたくさんいた」イチローは通訳を通して言った。「僕はそれを楽しんだ。ファンと一緒に。今度はホーム側だけど、どんな感じなのかほんとうに判らない。どんな反応があるんだろう」

投資家たちは、喝采をあげている。マイナーリーグの投手D.J.ミッチェルそしてダニー・ファーカーと交換された月曜日のイチローのトレードは、ヤンキースにとっては素晴らしい出来事だ。その38才の登場は、レッドソックスとのシリーズを盛り上げるのに役立つだろう。

例えば、タイムズ・スクエアのあるスポーツ用品店は、それをビジネスチャンスと捉え、彼の新しい31番が入った商品を販売した。Tシャツの売上は素晴らしい。しかし大陸を横断したイチローのモチベーションは、ワールドシリーズに勝つチャンスだ。

オールスター休暇の間に、彼は再建中で若手が多いマリナーズには居ることができないことがはっきり解った。そしてシアトルの幹部は、イチローの進む道を妨げることはできないと判断した。最初のハードル、そして彼を試す最初の良い機会となるのは、伝統の一戦だ。

「TVでしか見たことがないから」イチローは言った。「その試合には、歴史的にいろいろなものがあるのは知っている。ほんの数日前まで、僕自身でさえ、このユニフォームを着てレッドソックスと対戦するなんて、そんな状況になるなんて考えなかった」

金曜日の夜のブロンクスにライトが点灯するのと同時に、イチローはアドレナリンが噴出するのを感じるかもしれない。それは彼がシアトルでの3日間のお別れツアーで経験した憂鬱を吹き飛ばすものだ。ニューヨークとボストンの対戦は、それを強制する。

「それを見た時、僕は時々、戦いなんだなって思った。彼らが実際に殴りあうとかではなくて。だけど本当に、肉体的に、戦っている雰囲気だよね」イチローは言った。

これらの戦いは、気分転換になるかもしれない。スカウトの間でよく言われている意見の一つは、イチローは環境の変化によって復活するだろう。シアトルでの.288という低い出塁率は、彼を取り巻くチームの影響だというものだ。

ヤンキースのジョー・ジラルディ監督は、環境の変化が彼のパフォーマンスを向上させるという考えを説明してくれた。

「それは多くの選手の多くの場合に、助けになると私は思う」ジラルディは言った。「二年前に私たちは、ランス・バークマンを獲得した。そして彼はシーズンの終わりまで私たちの大きな力になった。彼は絶好調になった。イチローにも同じことが起こると私は思う」

アレックス・ロドリゲスが完璧に言い表したように、11年半もの間シアトルの”スーパースター”として扱われた彼にヤンキースがしなくてはならないことは、イチローがニューヨークに溶けこむのを難しくしてはいけないということだ。

「彼はニューヨークを気に入ると思うし、ニューヨーカーは彼を気に入ると思う」A-Rodは言った。「彼にとって大きな刺激になるし、私たちにとっても大きな刺激になる。全体的に見て、これはうちのフロントオフィスがとった素晴らしい動きだ。これがこの球団でプレーすることの、大きなメリットの一つなんだ」

三塁コーチのロブ・トムソンが水曜日の朝にセーフコ・フィールドの掲示板を軽く叩いたラインアップ表を見ることは、これまでは不可能だった。イチローがリードオフで、デレク・ジーターが2番、それが数年前のアメリカンリーグならば、物凄い話題になったことは疑いようがない。

その並びは、オールスターゲームのほうがより似合うように見えるが、ヤンキースはオーダーの中で、200安打を打ったかつてのイチローの姿を期待しているのではない。今シーズンの98試合で打率.261、2011年も同じようなものだったイチローに、ヤンキースは必ずしも彼らの攻撃を引っ張って欲しいとは思っていない。

「私は誰もが毎年、彼に200安打と100得点を期待していると思う。彼はそれに慣れていると思う」ジラルディは言った。「うちのラインアップに入れば、たぶん彼はそういった期待を必要以上には感じないんじゃないかな」

実際に彼らの望みは、単にスピードのあるブレッド・ガードナーが4月に今季絶望になる怪我を負った時に失ったものに近いことが、彼にできるだろうというものだ。彼らがラインアップに入った彼に見ているのは、スピードのある走塁と、堅実な守備で貢献することだ。

「どこから来たのかっていうことではなく、彼が来た環境と文化っていうのは、勝利と1位が期待されているから、彼のここでの責任っていうのは、劇的に変わるよね」A-Rodは言った。「僕たちは彼に、イチローでいて欲しいんだ。楽しんで、すべきことをしてほしい。なにか特別なことをやろうとする必要はないんだ」

それはそうかもしれないが、もしこれからのイチローが素晴らしい瞬間を見せても、驚いてはいけない。金曜日に彼が最初に名前を呼ばれて、声援がする方向を向いた時、イチローは新しい本拠地の観客から、暖かい歓迎を受けると予想できる。

「僕はヤンキースにトレードされたばかり。今年ずっとここにいたわけではないから」イチローは言った。「だからヤンキー・スタジアムに立った時、もしファンが僕に対してそうしてくれたら嬉しいね。だけど僕は自分自身を証明する必要がある。ファンが本当に楽しんで、本当に凄いって言って貰えるようなレベルのプレーをする必要がある。僕はそこに行った時、本当にそう感じる。僕は何ができるのかを、ファンに見せたいと思う」

参考記事:Baptism by fire: Ichiro thrust into Yanks-Sox rivalry By Bryan Hoch / MLB.com | 07/26/12 12:22 PM ET
http://newyork.yankees.mlb.com/news/article.jsp?ymd=20120726&content_id=35599270&vkey=news_nyy&c_id=nyy